きみたちの好きな戦争2017年04月02日 19時20分21秒




佐藤亜紀氏の最新作、「スウィングしなけりゃ意味がない」を先日読了しました。
ナチス政権下のドイツ・ハンブルグで、敵性音楽として弾圧されていたジャズに夢中になる少年たちの物語……と、こんなテーマの小説を、見てきたようなリアリティと臨場感を伴って描き切ることのできるような作家さんというものは、そうはいないでしょう。
ハンブルグという町が迎える運命というものを全く知らなかったこともあって、そんなにウェットな展開にならないのかなと思って読み始めたのでしたが、後半の衝撃は相当なものでした。ちょうど電車の中で読んでいたのですが、思わずうめき声を上げそうになりました。こんなに洒落た、かつ悲劇的なシーンというものを、読んだことがありません。

戦時を生きる少年の、敵性文化としてのジャズやアメリカ文化への憧れが重要なテーマとなっている小説、と言うとこちらは東京が舞台ですが、小林信彦氏の歴史的傑作である「ぼくたちの好きな戦争」を思い出します。そこで、こちらも読み返してみました。
喜劇的想像力を駆使することにより、戦争の狂気というものを浮き彫りにするという手法を取るこの小説では、悲惨な状況が直接描かれることは比較的少なくなっています(ベルガウル島の終盤は、それでもかなり凄惨ですが)。東京大空襲の場面に当たる第八章は何とわずか2頁だけ、当時の記事などがいくつか列挙されるだけ(これがエピローグにつながる)ですが、こちらではその「省略」がむしろ重みを持っているように思えます。しかし、それにしても秋間史郎がグラウチョ・マルクスとして米軍に投降する場面はすごい。

大きく手法の異なるこの二作品ですが、僕の中には近い系統の作品という印象が残りました。どちらも大傑作であることは間違いないでしょう。
個人が簡単に圧殺されてしまうような時代が、再び来ないことを。

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